<   2010年 06月 ( 9 )   > この月の画像一覧

アヴァンギャルド

『女は下着でつくられる』
f0236873_10522972.jpgジュリア・チャイルドがフランス料理でアメリカの家庭料理に革命をもたらした1960年代。ほとんど同じ時代に日本で女性意識に革命をもたらした人がいました。
最近展覧会に行ったこともあり、彼女の本を立て続けに読んでいるので、ちょっと無理やりの(渡り鳥読書)バトンパスですが、鴨居羊子のエッセイ集をご紹介します。

3年くらい前に職場の上司と「いま読んでいる本」の話をしていた時、私は森茉莉のエッセイを読んでいました。すると翌日、きっと気に入るよと言って貸してくれたのがこの本でした。

本書は、鴨居さんが駆け出しの新聞記者だった頃のことにはじまります。小さな夕刊紙。社の一人ひとりがそれぞれの分野のすばらしい専門家であり、「真面目に」ではなく「真摯に」仕事するそんな大先輩たちから多くを学びました。彼女の「本質を見抜く姿勢」「クリエイトすること」の原点がここにあるようです。

しかし昭和20年代、大新聞が一匹狼の記者たちを飲み込んでいきます。彼女も大新聞に移ることになりますが、記者が頭脳のペンからただのペンになり下がった時代だと言っています。
そしてある日、ヤメタ!と記者生活に見切りをつけ、いよいよ下着デザイナーとしての一歩を踏み出すのです。

宣伝のための個展、斬新なファッションショー、PR映画などなど、それまでの日本にはなかったような方法でビジネスとアートを融合させていきます。
「質が高くて小さい“ロンドン・タイムス”のような会社」を理想に掲げ、デザイナーとして、商売人として、ひとりの女として、時代を鋭く見つめています。

この自らの半生を綴った彼女の文章は、笑いあり涙あり、と言えるほどすっきり単純ではありません。
まっしぐらに突き進んでいくたくましさの一方で、繊細な感性を持っている。あっけらかんとした陽気な性格でありながら、かなしい経験を背負っている。
カモイヨウコという人のなかで渦巻いているたくさんの感情が、読者の心をざわつかせます。

タンスに青春をしまわないで、今日青春を謳歌し、明日それを捨て去るためにケンカをした。
その人生のなかでたくさんのものを捨ててきたのだろう。
あえて文章に書き残さなかったこともたくさんあるのだろう。
彼女がまとう自由に、そんなことをちらりと感じたりします。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-27 11:54 | 渡り鳥の読書

前衛下着道

f0236873_938622.jpg川崎市岡本太郎美術館で、鴨居羊子の展覧会が開催されています。彼女の作品をこれだけ集めた展覧会は関東では20年以上ぶりのようです。
私は数年前に鴨居さんのエッセイを1冊読んだことがあるだけなのですが、それだけで彼女の名前は強烈に記憶されました。

ジャーナリストから下着デザイナーに転身、メリヤスの白い下着しかなかった時代に、新素材のナイロンを使って斬新な色とデザインの下着を日本に誕生させた人物こそ彼女なのです。昭和30年のこと。女性意識の革命を起こしたとして一躍時代の寵児となりました。

展覧会では、鴨井さんの絵がかなりの枚数飾られていました。同じモチーフを繰り返し描いているのが印象的です。とくに心惹かれたのものの一つにオフィーリアがありました。

『ハムレット』の悲劇のヒロイン、オフィーリアの死の場面をかたどった絵が複数描かれています。棺の中でじっとしている女性(自分を描いたのでしょうか)や、棺ごと川に流されていく場面など。
でも絵を見た瞬間、私が思い浮かべたのは詩人テニスンが詠った『シャーロットの姫君』でした。シャーロットの姫君もよく似た入水の場面を持っています。かなしみに狂って死んでいくオフィーリアよりも、恋焦がれて死んでいったシャーロットの姫君の方が、私の頭の中ではカモイヨウコのイメージに合っている気がしました。


「シャーロットの姫君」は塔に閉じ込められ呪いを受けたために、外の世界を鏡を通してでしか見ることができません。ところがある日、鏡に映った一人の騎士に恋をするのです。死ぬと分かっていながら掟を破り外の世界を直接見てしまいます。「恋のために」とよく言われますが、シャーロットの姫が渇望していたものは自由だったのではないかと、なんとなく思ってしまいます。恋は引き金になっただけで。死のような長い人生よりも、一瞬の本物の生のほうを選びとったのではないか。文字通り命をかけて。
f0236873_8383454.jpg
鴨居さんがのこした言葉からうかがい知れる価値観や生き様にはそんな雰囲気があります。



ただやはりカモイ絵画はオフィーリアを思って描かれたのでしょう。オフィーリアのことを書いた短い文章も残っています。鴨井さんがどんな思い入れを持っていたのか気になるところです。
絵には潔い孤独がありました。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-24 10:32 | 美術館

阿蘭陀とNIPPON

f0236873_9474174.jpgf0236873_9494512.jpg渋谷にある“塩とたばこの博物館”に行って来ました。

明治から昭和にかけて製造されていたあるタバコのパッケージを探しに行ったのですが、ついでに観てきた企画展がおもしろかったです。

鎖国時代、西洋で唯一の交易国だったオランダと、唯一の窓口であった長崎。当時の交易にまつわる貴重な実物資料が展示されていました。当時もたらされた西洋文化の数々が日本の文化や学問に与えた多大な影響、また長崎が担った役割の重要性を考えさせられます。

知らなかったのですが、オランダ東インド会社(VOC)は世界初の株式会社なのだそうです。財力的な危機にあったオランダがアジアからの香辛料の利益を展望し、人びとから資金を集めて航海したのが発端でした。ヨーロッパの国々がこぞってアジアやアフリカにのりこんでいった時代のことです。

ちなみに日本初の株式会社は丸善です。明治という激動の新しい時代、「人の教育と命」を念頭に西洋の薬品や医療機器、書物を輸入し、やがては万年筆などの洋品を次々と日本に紹介していきます。

人を惹きつけるビジネスが、「お金のため」だけでは実現しないのは昔も今も同じだと思います。
現代に新時代を築くとしたら、どんな形があるでしょうか。
私にとっては新商品よりも新システム、「社会貢献」がいま気になるキーワードです。


話がそれましたが、この展覧会で興味引かれたのがもう二つ。
ひとつは、エンゲルベルト・ケンペル著『日本誌』。"S"が"f"そっくりの書体だったこと。1700年代のSはこう書くのか?(あとから少し調べてみると、18世紀ごろ、積分記号の∫のような書体が特定の地域で確かに使われていたようです。)

もうひとつは、日本画で描かれたオランダ人の絵です。2枚並んでいるうち一方には「阿蘭陀人」、もう一方には「紅毛人」と文字が書きこまれていました。何か使い分けがあったのでしょうか?
(こちらも後で調べると、「紅毛人」は元々北欧人を指していたのが、後にオランダ人に対して使われるようになったとか。日本にやってくる西洋人がオランダ人に限定されてしまった歴史的背景がうかがえます。)
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-21 11:53 | 美術館

教えるということ

『My Life in France』
f0236873_131526.jpg前回の本に、アメリカのとある料理番組のことが書かれていました。ジュリア・チャイルドの番組です。彼女の番組の魅力は失敗すること。最初から上手くいく人はいませんよ、と堂々失敗して見せるのです。それに比べて日本の料理番組は絶対に失敗しないか、またはタレントさんを引っ張りだして面白ろおかしく始めてしまう。教える番組ではなく、ただ見せる番組になってしまっているのでは、と心配されての話題でした。

ジュリア・チャイルドといえば、映画 Julie & Julia ですね。まだ観ていないのですが、映画が公開されてから、彼女はなんとなく気になる存在でした。

この本はジュリアの自伝です。おしゃべり好きでエネルギッシュな彼女らしく、かわいた明るさがあります。

34歳で結婚、36歳でフランスに転居、フランス料理に魅了され、37歳になってたまたま参加したコルドン・ブルーの公開授業で天職に出会います。
自分の店を出したい。最初それは漠然とした夢でしたが、学校で講師に習い、家で復習や試作や研究を地道に続けていくうち、夢が予定に変っていきました。ただし「店」はレストランではなく、料理学校となって。

彼女は「教えること」に非常に長けた人で、やがて料理本の執筆にとり憑かれていくのですが、学校にしろ執筆にしろ、どうしたら飽きさせず分かりやすく正確に伝えられるかを考えつづけていました。

アメリカに帰国後、アメリカ人に向けた料理本"Mastering the Art of French Cooking"が刊行するや評判になり、テレビの30分番組の企画が出てきます。この番組はメディアにおいて素人のジュリアがホストにもかかわらず、生放送のようにノンストップで収録されたといいます。起こりうることをそのまま放送した方が、はるかに学ぶことが多いはず。失敗を修復する方法を学ぶのが料理のコツであり、喜びであり、修復できなかったらニッコリ笑えばいい。彼女の番組は調理を楽しむレッスンでもあったのです。

人生、何事も考え方次第。
失敗談や困難な状況もさまざま記されていますが、ジュリアはどんな時も前へ前へと突き進み、結局すべてを楽しんでいるような気がします。

「変化が人生におけるスパイスなら、私の人生にはスパイスが多すぎる。カレーだよ。」
"A Curry of a life"
ジュリアの夫ポールの言葉がいい。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-19 09:31 | 渡り鳥の読書

はじめの一歩

『料理人の休日』
f0236873_1029954.jpg前回と同じく辻静雄さんの本です。今回は新聞や雑誌に寄稿した記事を集めたもの。先の本と内容がかぶるところもありますが、こちらはもう少し踏み込んで個人的な経験が綴られています。

フランス料理研究のアプローチ法として、「どこどこの国風のフランス料理」というテーマを取り上げる人が多いようなのですが、スタート地点で辻さんは日本を完全に無視しました。フランスのどこで、どんな食べ方をしていたかという面から取り組みまなければ納得できなかったそうです。
そのためにまず必要なのが文献集め。
しかし欲しいのは一般に流通している本ではないし、なんと言っても日本に前衛がないので、どれが重要な本かわからない。片っぱしから読んで判断するところから始めなければいけませんでした。回り道もはなはだしい。

後に、その分野において日本一の蔵書数を所持することになる人ですが、
本書には、文献収集にまつわるエピソードもいろいろ書かれています。
フランス料理の歴史の解説にいたっても、次々と文献がとびだし、この本にはこう書かれていたという形式で説明されるので、本好きの方はきっと心躍ります。


辻さんは何かひとつのことを知るとそれに連なる事柄を知らなくては落ち着いていられない性分のようです。
好きなことはいい加減にしてはいけない。芋づる式に、関連事項はすべて納得のいくまで調べなさい。
「芋づる式を大切に」 とメッセージを残しています。
広く深く。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-12 07:33 | 渡り鳥の読書

the last day of my 20's

いつもはそうでもないのに、今年は誕生日を意識してしまう。
30の年。
じつは、結構心待ちにしていました。

学生時代、そして社会に出てからと、私が大きく影響を受けたのが5歳も10歳も年上の人たちで、彼らの多くが30代(かそれ以上)の人たちだったからだと思います。知識の深さや行動力をいつも尊敬していて、なんとか近づきたいと上ばかり見ていた20代だった気がします。

かつてのみんなの年齢に少しずつ近づいていっていますが、同じ時間の分だけ、みんなはまたさらに先を歩いているのでしょうね。


f0236873_10304511.jpgGondola Soft Pastels

スタインの本を読んでいると絵を描きたいという気持ちがムクムクと。スタインの文章は油絵のイメージだけど、油絵はきっと長続きしないだろうから、、、

絵描きの友人が勧めてくれたパステルを、先日買ってみました。彼女のオススメだからさぞかし画材として面白味があるのだろうと始めから思っていたけれど、これはかなり楽しい。

夜な夜な手をよごし、寝不足気味です。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-11 01:23

小江戸川越

f0236873_23163713.jpg家から電車で30分。
埼玉県川越市に行って来ました。ここには国の保存地区に選定されている蔵造りの町並みがあります。観光客も多く、思った以上の賑わいでした。
道幅が広く全体的にゆったりしていたのが印象的でした。この町は何度も大火に見舞われた歴史があり、昔から防火対策として道幅を広げていたようです。

お土産屋さんを兼ねて地元のものを売っているお店はもちろん、おしゃれなカフェや雑貨屋なども見かけます。なんとなく町が気取っていない感じ。食べ歩きしながら2時間ほど散策を楽しみました。

f0236873_2315722.jpg
「時の鐘」は約400年前からこの町に時を知らせつづけ、今もなお現役です。
「残したい日本の音風景百選」に選ばれたとか。どんな音だろうと思っていたら、通りかかった観光案内所でおじさんが「12時に鐘がなるよ」と教えてくださいました。
菓子屋横丁を歩いていたら ぼぉ~ん と聞こえてきました。場所が少し離れていたからかもしれませんが、けたたましいわけでもなく連発するわけでもなく、何気なく耳に届いてくる感じです。

ちなみに菓子屋横丁は「かおり風景百選」に選ばれているそうです。
お菓子のかおりはよくわかりませんでしたが、美味しい匂いを放つパン屋がありました。


f0236873_23204274.jpgf0236873_23212146.jpg
f0236873_23401793.jpgf0236873_23403856.jpgf0236873_2341066.jpg

氷川神社ではちょうど結婚式が。ご神木も立派です。少し長居して眺めていました。









歩いていると少し汗ばんでくるような、初夏の陽気な休日。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-06 22:15 |

料理の学び方

『フランス料理の学び方』
f0236873_233953100.jpgトクラスの料理読本』を読んでフランス料理とはどんなものかと思い、手にしたのがこの本です。
本書は辻静雄さんが辻調理師学校で行なった8回の講義をまとめたもので、料理人を目指す若者たちに料理人としての心構えを認識させようとするメッセージ性が強く感じられます。1970年の講義とは思えないほど、辻さんの言葉は新鮮に届いてきます。

フランス料理とは何なのか。
結論から言うと、材料も人間の嗜好も時代とともに変わっていくのだから、それぞれの時代で特徴が違い、一言では説明できません。逆に言うと、料理とはそういうものだということです。
そこでまずは各時代の文献や研究書をたくさん紹介しながら、歴史の流れを繙いていきます。
(書物に残された料理の多くが、裕福な人びとの食事だということを覚えておかなければいけません。)

遡ろうとすれば古代ローマにまで遡れますが、重要なのはもっと後の時代です。イタリア料理の影響を受け、ご馳走がおいしいものだと意識され始めたのが16世紀。料理の専門家が出始めたのが17世紀。
フランス革命が料理に大きな変遷をもたらしたのが18世紀。革命によって料理の贅沢を楽しめる金持ちや権力者が減少し、行き場を失くしたコックたちがレストランを作り発展させます。そして専門料理と家庭料理が区別されるようになりました。
19世紀に革命が終わると、美味学(おいしいものをおいしく食べるための学問)が誕生します。現代の人たちが食べて美味しいと思える料理が登場するのはこの頃からだといいます。一皿ずつ出す今の食べ方が始まったのも19世紀で、ロシアから輸入されました。
そして黄金の20世紀。教養の重要性、調理場の改良などなど、あらゆる面でフランス料理の近代化が図られました。

ふたたび、フランス料理とは何か?
継承と変化、この2つの歴史を背負った現象だと書かれています。


時代ごとに料理のあり方は違います。
辻さんは常に比較文化論的な視点に立ってフランス料理の歴史を見つめていて、
「外国人がフランス料理を作る」ということを非常に意識されています。
日本で日本の食材を使って作るならば、本場の料理にはなりえない、日本人のためのフランス料理を志すべきだとはっきり述べます。なぜなら、現在料理人であるということは、お客様が満足して初めて成り立つからです。
また作りっぱなしの料理人が多いことを嘆き、給仕の仕方、器の選び方、経営管理がいかに大切かを警告します。
料理が「味」だけではないのは、趣味と仕事、芸術家と職人が決定的に違うのと同じなのです。


料理人を目指していない人にも、「仕事の学び方」として考えさせられるものがあります。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-05 09:30 | 渡り鳥の読書

スウェーデン日和

『やかまし村の子どもたち』
f0236873_22165821.jpg今日はおとといスウェーデンから帰国した友人にたくさんの写真と土産話で楽しませてもらったので、この本が無性に読みたくなりました。
私にとってスウェーデンというと、リンドグレーンとハルストレムが真っ先に思い浮かびます。

アストリッド・リンドグレーンの作品はどれも好きですが、中でも一番好きなのが『やかまし村』シリーズです。
やかまし村には三軒しか家がありません。中屋敷にはラッセとボッセとリーサ、南屋敷にはオッレ、北屋敷にはブリッタとアンナが住んでいて、子どもはたったの6人だけ。魔法も小人も出てこないけれど、ありふれた毎日の暮らしが大冒険できらきらと輝いています。

リンドグレーンの作品が生き生きしているのは、子どもが子どもだから、つまり彼女が子どもの目線を持っているからなのだと思います。
たとえば次のような文章が気に入っています。

リーサがブリッタとアンナを読者に紹介する場面。ブリッタは九つで、アンナは、わたしとおない年です。わたしは、ふたりとも、おなじくらい、だいすきです。アンナのほうが、ほんのちょっとだけ、よけいにすきかもしれません。

また、ラッセとボッセがリーサを怖がらせようと椅子をおばけのように躍らせる場面では、はじめ、わたしはおこってましたが、そのうち、がまんできなくて、わらいだしてしまいました。
f0236873_23485573.jpg
はじめてこの作品を知ったのは小学生のとき、映画を観たのがきっかけでした。そして映画を撮ったのがラッセ・ハルストレムで、彼もまたスウェーデンの人です。「やかまし村」以外にも「サイダーハウス・ルール」「ショコラ」などなど、心にのこる素晴らしい映画を撮っています。


「非日常」も大好きですが、「日常」のなかにドキドキワクワクがあるのも同じくらいすきだ、と「やかまし村」を読んだり観たりするたびに思います。
[PR]
by iftuhsimsim | 2010-06-02 22:17 | 児童書