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ドイツの本事情

f0236873_8261989.jpg上野の国際子ども図書館での講演会 「いま、ドイツの子どもの本は?」 に行ってきました。
第一部は、ドイツの児童文学史(酒寄進一先生)。第二部は、先月ドイツで開催された国際ブックフェアの報告もまじえた、出版現場のお話でした(那須田淳先生)。

文学史の話題ではドイツならではのテーマとして「ナチ時代文学」が取りあげられ、そこで一番最初に登場したのが『アンネの日記』でした。スタートがこの本なのは、ドイツにはじめてユダヤ人迫害を意識させ、その後の”戦争の描き方”を変えた作品だからです。西ドイツでは終戦から4年後の1949年に、東ドイツでは15年もたった1960年に出版されました。

年代順に時代背景とあわせていくつかの作品が紹介されたのですが、こうみていくと、ドイツも過去の戦争を受け入れられるようになるまでに、長い年月が必要だったことがよくわかります。

「アンネの日記」は(読者を意識していない)日記なのに「文学」なのか?
なんて質問があって、いままで疑問に思ったこともなかったので、おもしろいなあと思いました。


現在のドイツの出版事情で へえ と思ったのは、ドイツが翻訳天国だということでした。国内最大の文学賞が翻訳ものも対象になっているくらい。その背景として、酒寄さんは、戦後ドイツにうまれた思想もきっと関係しているとおっしゃっていました。
「言葉でわかりあえない限り、本当の理解はない」
翻訳のための費用70%は国が補助し、マイナーな国の本であっても、文化の紹介という目的で出版されていたりするそうです。
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by iftuhsimsim | 2011-04-24 09:08 | lecture

平和絵本プロジェクト

f0236873_14131128.jpg東京上野にある国際子ども図書館へ、講演を聴きにいってきました。
『いま、世界の子どもの本は?』というシリーズの3回目で、今日のテーマは韓国の絵本でした。

韓国絵本の歴史はそれほど古くはありません。1960年代に生まれた人たち、つまり1980年ごろ大学生で民主化運動を経験した時代の人たちが礎を築いたといいます。むかしは学校の教師が、最近ではデザインを仕事にする人たちが絵本制作に携わる傾向にあるようです。
扱われるテーマは大きく2つあります。ひとつは、仏教や風習など自国の文化について。もうひとつは、自然との共生など社会的なテーマです。たくさんの絵本が紹介されましたが、ほぼすべての本がいずれかのテーマに当てはまっていた気がします。



後半、クォン・ユンドクさんという女性の絵本作家さんがご自身の作品を朗読してくださり、その本を出版することになったいきさつと、子どもたちの反応を語ってくださいました。

タイトルは『花のおばあさん』
従軍慰安婦だった女性の生涯を描いた実話です。クォンさんはこのテーマをどう伝えたらよいのか試行錯誤し、完成までに12冊の本が出来上がったそうです。でも一貫してこだわられた1枚の絵がありました。この犯罪が一部の人間によるものではなく、制度的な国家の犯罪だということを示す絵です。

この絵本のきっかけは、日本の絵本作家4人が提案した「日・中・韓・平和絵本」というプロジェクトでした。各国4人の絵本作家が平和をテーマに作品を作り、それぞれの国で翻訳・出版するというシリーズ企画です。
日本人作家4人のうちのひとり、浜田桂子さんが講演の最後におっしゃいました。いまの日本の子どもたちが青年になったとき、隣人の韓国や中国の人たちと真のコミュニケーションが取れるのかとても心配で、自分たち大人にできることがないか考えたのだ、と。聞いていると日本の現代史教育の問題はほんとうに深刻です。

日本の学校や、在日朝鮮学校、韓国の学校でモニタリングがあり、クォンさんは韓国や朝鮮の子どもたちに対して、日本の子どもたちがどんな感想を述べたと思うか質問されました。「日本の子はこの話を認めなかったと思う」という内容のことを言った子がどの学校にもいたそうです。クォンさんが「そんな日本人の子はいなくて、みんなと同じ気持ちだった」ということを伝えると驚いていたとおっしゃっていました。
地道だけれど、相互理解というのはこういう直接的な対話から始まるのだとつくづく思います。


『花のおばあさん』のモデルの女性は、昨年12月に亡くなりました。彼女の体調を考慮し、この絵本を韓国だけで緊急出版したときの記念会の写真があって、おばあさんがとてもにっこり笑顔だったのが印象的でした。

日本での出版は今年の3月以降。
同じ戦争犯罪は大戦以後もつづいています。ベトナムで、ボスニアで、コンゴで、イラクで。「くり返してはいけない」というメッセージが多くの人たちに伝わっていくといいなと思います。
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by iftuhsimsim | 2011-01-22 19:06 | lecture

いま、イギリスの子どもの本は

f0236873_1151285.jpg国際子ども図書館で開催されたジャクリーン・ウィルソンの講演会に行ってきました。ウィルソンはいまや世界的な人気を誇るイギリスの児童文学作家です。

私は彼女の本を大人になってから読みはじめたのですが、はじめのうちは内容に少しびっくりしました。長年コンビを組んでいるニック・シャラットのポップでカラフルな表紙に惹かれつい手を伸ばして読んでみると、想像していた物語とは違って子どもたちがなんとも困難な境遇に置かれているのです。片親の家庭で、親の恋人や再婚相手とあまりいい関係を築けないでいる居心地の悪さ、もっと言うと嫌悪感を感じながら毎日を過ごしていたりします。
また時には、親を許したり、親を見守ったりする役目をになっている子どもたちもいます。

現実にいまのイギリスでは両親と暮らす子どもがどんどん少なくなっていて、ウィルソンがこれまでに訪問した学校の生徒の約5割が片親なのだそうです。
ウィルソンがいつもハッピーエンドな結末を用意しているのは、子どもたちへの励ましの気持ちを込めているから。

児童書といえば、イギリスには歴史的に質の高い本が数多く存在します。しかし、そのほとんどは中流階級の人が中流階級の子どもに向けて書いたものでした。ウィルソンも幼いころそのような本を読んで育ち、小学生のときに小説を書きはじめるのですが、彼女はその頃から労働者階級の人たち、悲しい気持ちを抱く人たちに関心があったようです。
この日、通訳者と同時に対談相手でもあった翻訳家のさくまゆみこさんは、この点においてウィルソンの本は児童文学の流れを大きく変えたと言われました。

ユーモアたっぷりのウィルソンらしく、作品は厳しいテーマを扱いながらも決して重たくありません。
さまざまな立場に立たされた人たちがいることをみんなに知ってほしいということ、これもウィルソン文学がもつメッセージのひとつです。ファンの数から考えると、いまのところ成功しているようですね。

この日、子供向けに書かれた彼女の自伝が紹介され、まだ読んでいませんが興味津々です。明瞭でかわいらしい声と話し方が印象に残る、チャーミングな人でした。




   
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by iftuhsimsim | 2010-09-26 01:16 | lecture