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平和絵本プロジェクト

平和絵本プロジェクト_f0236873_14131128.jpg東京上野にある国際子ども図書館へ、講演を聴きにいってきました。
『いま、世界の子どもの本は?』というシリーズの3回目で、今日のテーマは韓国の絵本でした。

韓国絵本の歴史はそれほど古くはありません。1960年代に生まれた人たち、つまり1980年ごろ大学生で民主化運動を経験した時代の人たちが礎を築いたといいます。むかしは学校の教師が、最近ではデザインを仕事にする人たちが絵本制作に携わる傾向にあるようです。
扱われるテーマは大きく2つあります。ひとつは、仏教や風習など自国の文化について。もうひとつは、自然との共生など社会的なテーマです。たくさんの絵本が紹介されましたが、ほぼすべての本がいずれかのテーマに当てはまっていた気がします。



後半、クォン・ユンドクさんという女性の絵本作家さんがご自身の作品を朗読してくださり、その本を出版することになったいきさつと、子どもたちの反応を語ってくださいました。

タイトルは『花のおばあさん』
従軍慰安婦だった女性の生涯を描いた実話です。クォンさんはこのテーマをどう伝えたらよいのか試行錯誤し、完成までに12冊の本が出来上がったそうです。でも一貫してこだわられた1枚の絵がありました。この犯罪が一部の人間によるものではなく、制度的な国家の犯罪だということを示す絵です。

この絵本のきっかけは、日本の絵本作家4人が提案した「日・中・韓・平和絵本」というプロジェクトでした。各国4人の絵本作家が平和をテーマに作品を作り、それぞれの国で翻訳・出版するというシリーズ企画です。
日本人作家4人のうちのひとり、浜田桂子さんが講演の最後におっしゃいました。いまの日本の子どもたちが青年になったとき、隣人の韓国や中国の人たちと真のコミュニケーションが取れるのかとても心配で、自分たち大人にできることがないか考えたのだ、と。聞いていると日本の現代史教育の問題はほんとうに深刻です。

日本の学校や、在日朝鮮学校、韓国の学校でモニタリングがあり、クォンさんは韓国や朝鮮の子どもたちに対して、日本の子どもたちがどんな感想を述べたと思うか質問されました。「日本の子はこの話を認めなかったと思う」という内容のことを言った子がどの学校にもいたそうです。クォンさんが「そんな日本人の子はいなくて、みんなと同じ気持ちだった」ということを伝えると驚いていたとおっしゃっていました。
地道だけれど、相互理解というのはこういう直接的な対話から始まるのだとつくづく思います。


『花のおばあさん』のモデルの女性は、昨年12月に亡くなりました。彼女の体調を考慮し、この絵本を韓国だけで緊急出版したときの記念会の写真があって、おばあさんがとてもにっこり笑顔だったのが印象的でした。

日本での出版は今年の3月以降。
同じ戦争犯罪は大戦以後もつづいています。ベトナムで、ボスニアで、コンゴで、イラクで。「くり返してはいけない」というメッセージが多くの人たちに伝わっていくといいなと思います。
by iftuhsimsim | 2011-01-22 19:06 | lecture
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