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フェノロサの浮世絵

『浮世絵史概説 ―フェノロサ厳選20木版画による浮世絵史観』
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永井荷風が浮世絵について書いた前回の本に「欧米人の浮世絵研究」という章があります。何人もの研究者がとりあげられるなか、ひときわ注目を引くのがフェノロサでした。一枚一枚の絵に年代や説明を施し(現在の定説と違う箇所もあります)、各画家の制作年限とその画風の変化を調べあげると同時に、浮世絵全盛の年代史を提示した最初の人と記されています。

フェノロサという名前は聞き覚えがあるものの、何をした人だったか。
本書の略歴をみると、アメリカの哲学者、東洋学者、日本美術研究家とあります。明治11年に御雇外国人教師として来日すると東大で教鞭をとりました。岡倉天心と共に欧米視察に出かけるところでやっと、ああこの人かと思います。アメリカに帰国後はボストン美術館の日本美術部管理責任者に就任、最終的には渡欧し、ロンドンで客死。

この本は、フェノロサが選ぶ20枚の絵をもとに、浮世絵を年代をおって観ていくというもの。先ほども少し書きましたが、フェノロサは「年代順」にこだわりを持っていました。それまでの日本美術は素材に基づいて分類されていて、例えば陶磁器、漆器、肉筆画、織物、版画といった括りで研究されていました。
でも美術とはなにか、浮世絵とはなにかと考えたときに、それは手技ではなく精神だとフェノロサは言います。ある特定の時期のものを調べるならば、同じ時期の美術の全分野を並行して考慮すべきというスタンスです。

だからフェノロサは変化に対して敏感で、本書も社会的背景や人びとの意識の変化をおさえながら、浮世絵の歴史が書かれています。年代史の具体的な内容は割愛しますが、ひとつ面白かったのは、歌麿や北斎をフランスと比較しているところ。歌麿については現代フランス美術や文学によく似て、とくにゾラの自然主義に通じるとあります。北斎の絵については、古典的なのにロマン主義を意識しているとあり、北斎は東洋のパリに現れたユゴーかデュマなんだそうです。

そういえば、ヨーロッパの有名な画家たちが浮世絵に影響をうけた話はよく聞きますが、歌麿や北斎は逆にヨーロッパを意識したりしていたのでしょうか。
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by iftuhsimsim | 2010-10-06 23:47 | 渡り鳥の読書
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