『江戸芸術論』
前回の本に紹介されていたなかの1冊です。浮世絵から日本(江戸)の文化をひも解いていく芸術論集です。 この本を読みすすめていくうちに気づくのは、左の写真の表紙以外、絵が一枚も収録されていないこと。言葉でひたすら説明していきます。 絵描きの特徴や時代的背景はもちろん、作品の構図、図の背景や人物の様子までがこまやかに独特の表現で綴られています。 春信の絵をただ美しいでも艶めかしいでもなく、「しずこころなく散る花を見る如き」なんて表現をしていていいなあと思いました。 浮世絵一般のことに始まり、春信、広重、歌麿、北斎と名画が登場します。また欧米人による浮世絵研究の紹介もありました。 この本を読んで印象に残るのは浮世絵のことよりも荷風の文章でした。特にすきなのは色彩を表現する箇所です。 ・・・色彩は皆さめたる如く淡くして光沢なし、・・・暗澹たる行燈の火影を見るの思ひあり。・・・もし木版摺の眠気なる色彩中に制作者の精神ありとせば、そは全く専制時代の萎微したる人心の反映のみ。余はかかる暗黒時代の恐怖と悲哀と疲労とを暗示せらるる点において、あたかも娼婦がすすり泣きする忍び音を聞く如き、この裏悲しく頼りなき色調を忘るる事能はざるなり。・・・ これは一例ですが、荷風の感性がよく現れていると思います。 前回も書いたように、忘れ去られたようなさみしい風景に心惹かれる荷風は、浮世絵においても同じように、儚げな哀しげなところに惹かれるようです。 とにもかくにも、色彩を文章で表現するということは、大変な作業です。 どれほどピッタリと思える言葉でも、それがすべてではないような。 芸術活動とは行き着くことのない"ピッタリ"をさぐりあて表現することなのかもしれません。目指すものに近づこうとして費やされる人のエネルギーや思いに、ときどき感動することがあります。
by iftuhsimsim
| 2010-09-17 23:52
| 渡り鳥の読書
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