『一戔五厘の旗』
前回の本に、鴨居羊子が花森安治に大阪を案内したというエピソードがありました。 花森安治についてあまり多くは知らないくせに、私には大事にしている彼の文章がひとつあります。 『早春と青春』を自分の持ち物にしたくて、2月3月頃になると毎日そらで口ずさみます。 季節が違うので、内容は割愛。 とにかく良い機会なので花森安治という人を知ろうと思いました。 花森安治は、1948年に雑誌『暮らしの手帖』を創刊し、以後30年間、死の前日までペンを握り、編集長を勤めた人です。 この本は、『暮らしの手帖』から花森さん自身が選んだ29篇が収められています。そしてその一つ一つが傑作です。 『塩鮭の歌』や『札幌』では文章の静謐さと迫力にはっとさせられ、『商品テスト入門』などでは花森安治がどれほど本気で日々の暮らしを大切に思い、この国を変えようとしていたかを知ることができます。 でも一番心に迫ってくるのは、戦争について書かれたものでしょうか。 暮らしの手帖が100号を迎えた1969年頃から、花森さんは戦争について触れるようになります。終戦から20年以上の時が経っていました。 「一戔五厘」とは戦時中の葉書1枚の値段です(本当はもっと安かったそうですが)。花森さんが軍隊のいたとき、「兵隊は一戔五厘でいくらでも代わりが来る」と怒鳴った軍曹がいたそうです。 戦後になって、花森さんは一戔五厘の旗を掲げます。 一戔五厘の旗とは、こじき旗。ぼろ布端布をつなぎ合わせた暮らしの旗。世界ではじめての庶民の旗。 すべてを失った焼け跡がスタート地点であるかのように、花森さんの書く戦争にはどこか、決意表明のような空気があります。 「国をまもるということ」は、今日のような日に読むのがふさわしいかもしれません。 いま、だれかが、「なぜ〈くに〉は守らなければならないか」と質問したら、やはり答えられないだろう。・・・ いったい〈くに〉とは何だろうか。・・・ぼくが、実感として〈くに〉を肌に感じるのは、税金をはらうときである。・・・ぼくにとって、〈くに〉とは、いつでもなにか不当にいためつけようとたくらんでいる、そんなもののような気がして仕方ない。・・・ 〈くに〉に、政府や国会にいいたい。〈くに〉を守らせたために、どれだけ国民をひどい目にあわせたか、それを、忘れないでほしい。・・・ いまの世の中を、これからの世の中を、〈くに〉が、ぼくたちのためになにかしてくれているという実感をもてるような、そんな政治や行政をやってほしい。 それがなければ、なんのために〈くに〉を愛さなければならないのか、なんのために〈くに〉を守らなければならないのか、なんのために、ぼくたちは、じぶんや愛する者の生命まで犠牲にしなければならないのか、それに答えることはできないのである。 今日の参院選、誰にしようか迷いに迷って、投票に行ってきました。
by iftuhsimsim
| 2010-07-11 17:05
| 渡り鳥の読書
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